Expertsに学ぶ <座談会> 他科連携によるATTRvアミロイドーシスの診断と治療 ~大阪大学における取り組み~
- 日時
- 2022年9月30日(金) 19:00~21:00
- 場所
- 千里阪急ホテル
- 司会
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- 望月 秀樹 先生 大阪大学大学院医学系研究科 神経内科学 教授
- 坂田 泰史 先生 大阪大学大学院医学系研究科 循環器内科学 教授
- ディスカッサント(ご発言順)
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- 池中 建介 先生 大阪大学大学院医学系研究科 神経内科学 助教
- 世良 英子 先生 大阪大学大学院医学系研究科 循環器内科学 特任助教
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髙橋 正紀 先生 大阪大学医学部附属病院 遺伝子診療部 副部長
(大阪大学医学部 保健学科)
トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー(以下、ATTRvアミロイドーシス)*は、末梢神経や心臓などの全身諸臓器にトランスサイレチン(TTR)由来のアミロイド線維が沈着することで発症する進行性の全身性疾患である。以前は有効な治療法がなかったが、近年では薬物による非侵襲的な治療が行えるようになり、脳神経内科と循環器内科を中心とした複数の診療科による連携に加え、発症前診断や遺伝カウンセリングをより積極的に行って早期診断・早期治療につなげる重要性が高まった。
そこで本座談会では、本疾患に対して遺伝子診療部も含めた他科が連携して診療にあたっている大阪大学の医師にお集まりいただき、それぞれの立場から本疾患の診断・治療や血縁者を含むフォロー体制などについて議論していただいた。
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「遺伝性ATTRアミロイドーシス」、「FAP(Familial Amyloid Polyneuropathy)」とも呼ばれています。
ATTRvアミロイドーシスにおける早期診断・早期治療の重要性
紹介した症例は臨床症例の一部を紹介したもので、すべての症例が同様の結果を示すわけではありません。
坂田はじめに、ATTRvアミロイドーシスにおける早期診断・早期治療の重要性について、脳神経内科と循環器内科、それぞれの視点から解説いただきます。
池中ATTRvアミロイドーシスはTTRを原因物質とする全身性アミロイドーシスです。TTRは主に肝臓で産生されるタンパク質で、通常は四量体で循環血液中に存在していますが、TTR遺伝子に変異があると、産生されるTTRの四量体構造が不安定化して単量体となり、ミスフォールディングを起こしてアミロイド線維を形成し、全身の諸臓器に沈着するようになります。そして、アミロイド線維が沈着し続けることで、神経・心機能や身体機能が進行性に悪化します。
こうした病態に対する治療法として、不安定なTTR四量体に結合し単量体への解離を抑制するTTR四量体安定化剤と、肝臓でTTR mRNAを特異的に分解して変異型および野生型TTRの産生を抑制するsiRNA製剤による薬物療法があります。
坂田本疾患は進行性で予後不良であるため、早期に診断して、適切な治療を開始することが重要ですね。
池中はい。世界初のsiRNA製剤であるオンパットロ(一般名:パチシランナトリウム)の長期投与による安全性と有効性を検討するグローバルオープンラベル継続投与(Open-Label Extension:OLE)試験の中間解析(12ヵ月)1)において早期治療の重要性が示されています。OLE試験開始12ヵ月時点における補正神経障害スコア(mNIS+7)の親試験(APOLLO試験2))でのベースラインからの平均変化量は、オンパットロを親試験から継続して投与した群(APOLLO-オンパットロ群)では-4.0であったのに対して、親試験でプラセボを投与してOLE試験からオンパットロに切り替えた群(APOLLO-プラセボ群)では、OLE試験開始時からは-1.4でしたが、親試験でのベースラインからは+24.0であり、APOLLO-オンパットロ群との差を埋めることはできませんでした(図1)。この結果から、ATTRvアミロイドーシスの進行抑制のためには、発症後早期から適切な治療を開始することが重要であるのがわかります。
次に、早期診断の重要性を示した1剖検例(男性)をご紹介します。この方は、64歳頃に立ちくらみの症状が出現し、全身の筋力低下が進行して寝たきりの状態となった発症8年後に遺伝学的検査でTTR遺伝子変異[Glu61Lys(p.Glu81Lys)]が検出され、ATTRvアミロイドーシスと診断されました。その後、TTR四量体安定化剤やオンパットロによる治療を行い、オンパットロによる治療開始後はそれまで続いていたひどい下痢症状の改善などがみられていましたが、2年後(75歳時)に肺炎で死亡されました。その時の剖検で、心臓や腸管におけるTTRアミロイドの沈着は残存していたものの、肝臓におけるTTRの発現は抑えられていたことを病理組織学的に確認しました。本症例は、オンパットロ投与例における世界初の剖検症例となり、肝臓でのTTR産生抑制効果を実証し、早期診断・早期治療の重要性を示した貴重なデータといえます。
坂田それでは次に、循環器内科の立場からお願いいたします。
世良循環器内科で診る全身性アミロイドーシスのうち、特に重要視すべきなのが、心アミロイドーシスをきたすAL(amyloid light-chain)アミロイドーシスとATTRアミロイドーシスです。ATTRアミロイドーシスは、ATTRvアミロイドーシスと野生型ATTR(ATTRwt)アミロイドーシスに大別されますが、近年では、心アミロイドーシスの非侵襲的な画像診断技術として99mTcピロリン酸シンチグラフィが活用できるようになり、特にATTRwtアミロイドーシスの検出率が大きく向上しています3)。実際、他の施設において99mTcピロリン酸シンチグラフィによりATTR心アミロイドーシスが疑われた患者を、生検目的で当院に紹介いただくケースが増えています。
坂田99mTcピロリン酸シンチグラフィによるATTR心アミロイドーシスの診断能はどの程度なのでしょうか。
世良99mTcピロリン酸シンチグラフィで陽性であった場合のATTR心アミロイドーシスの診断能は、感度58~99%、特異度79~100%4,5)とされています。陽性であった場合は、積極的に生検を行って確定診断すべきと考えています。
坂田その他、早期診断・早期治療について何かコメントはありますか。
世良ATTR心アミロイドーシスでは、NT-proBNPや心筋トロポニンが上昇します。しかし、こうしたバイオマーカーが上昇する前から心筋へのアミロイド沈着は始まっており、バイオマーカーが上昇する頃には病期がすでに進行してしまっています6)。また、40歳以降に肥大型心筋症と診断された患者343例について各種画像検査や遺伝学的検査で再検討した結果、32例(9%)に心アミロイドーシス(ATTRwtアミロイドーシス:17例、ATTRvアミロイドーシス:11例、ALアミロイドーシス:3例、アポリポ蛋白A-Iアミロイドーシス:1例)が見つかり、その割合は60歳以上から加齢とともに増加して80歳超では26%を占めていたことが報告されています7)。自験例からも、60歳以上で左室肥大があり、冠動脈疾患が否定された心電図異常、BNP/NT-proBNPや心筋トロポニンの軽度上昇がみられる場合は、遺伝学的検査も含めた精査を行い早期診断に努める必要があると考えています。
ATTRvアミロイドーシスにおける早期診断のポイント
坂田ATTRvアミロイドーシスを早期診断するためにはどのような点に留意すればよろしいでしょうか。
池中大阪府を含む非集積地のATTRvアミロイドーシスでは、熊本県や長野県などの集積地とは異なり、自律神経障害が軽度であり、大径線維障害が優位なことが特徴とされ、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(CIDP)との鑑別が重要になります。例えば、名古屋大学からの報告では、神経生検を施行した家族歴を有さないATTRvアミロイドーシス[Val30Met(p.Val50Met)変異]患者15例のうち、8例(53.3%)で生検前にCIDPが想起されていたことが示されています8)。したがって、特異的な神経症状に乏しい非集積地のATTRvアミロイドーシスでは、硝子体混濁や肥厚型心不全、手根管症候群、ネフローゼ症候群など、本疾患でよくみられる合併症に注目することが重要です。原因不明の神経障害があり複数の合併症が認められる場合は、専門施設へ紹介することが望ましいと思われます。
世良ATTRアミロイドーシスは多様な臨床症状を呈することから、早期診断のためには、まず各診療科で本疾患を疑うことが重要です。当院では、循環器内科と神経内科を中心に、眼科や整形外科からの紹介を受けて診断から治療につなげているのが現状です。当院でのATTRアミロイドーシス患者25例について検討したところ、初回受診の契機として最も多かったのが心不全8例(32%)、次いで健診心電図異常、末梢神経障害が各4例(16%)、左室肥大と硝子体混濁が各3例(12%)となっています(図2)。初回受診診療科としては循環器内科が最も多く17例(68%)でした。
池中当院では、各診療科でATTRvアミロイドーシスが疑わしい患者に遭遇した際は、お互いに紹介し合い、神経内科では神経伝導速度を評価したり、循環器内科では心不全の症状・所見を確認していただいたりしています。また、眼科にも必ず紹介して、硝子体混濁などの眼病変の有無をスクリーニングしてもらいます。さらに、ネフローゼがある場合は腎臓内科に、脊柱管狭窄症や手根管症候群がある場合は整形外科に病態のコントロールについて相談しています。
坂田それぞれの診療科がATTRvアミロイドーシスを念頭に、そして本疾患が全身性の疾患であることを考慮した上で診療にあたるのが重要ということですね。
池中そのとおりだと思います。また、本疾患を早期診断するためには、TTR遺伝子の遺伝学的検査を行うタイミングも重要なポイントだと考えています。私は、原因不明の末梢神経障害で未診断のまま17年が経過し、右腓腹神経生検ではTTRアミロイドの沈着を検出できず、心筋生検で検出できた症例を経験しました。ATTRvアミロイドーシスでは、神経におけるアミロイド沈着は散在性であり陽性率は100%でないため、偽陰性を常に考える必要があります。また、ATTRアミロイドーシスであった場合の心筋生検による陽性率はほぼ100%9)とされていますが、他の生検方法と比べて侵襲性が高くリスクを伴います。したがって、ATTRvアミロイドーシスでは、生検よりも先に採血で検査可能なTTR遺伝子の遺伝学的検査を行うことも考慮すべきと考えています。
世良循環器内科では、外来での血液・尿検査や99mTcピロリン酸シンチグラフィなどを行って、ATTRアミロイドーシスが疑わしい場合は、心筋生検を目的とした入院検査を行っています。その際、心筋生検の結果を待ってからTTR遺伝子の遺伝学的検査を行うと、難病医療費助成制度の申請期間も含めて治療開始までに約半年の期間を要してしまうことから、99mTcピロリン酸シンチグラフィで陽性像を認めた場合などATTRアミロイドーシスが特に強く疑われるケースでは、心筋生検と遺伝学的検査をほぼ並行して行い、確定診断および治療開始までの期間をできるだけ短くするようにしています。
ATTRvアミロイドーシスの治療
望月それでは次に、ATTRvアミロイドーシスの治療についてお話を伺います。
世良神経障害と心病変を伴うATTRvアミロイドーシスに対しては、利尿薬を用いて体液貯留による症状を緩和するなど通常の心不全管理を行いつつ、アミロイドーシス自体への治療も併せて行う必要があります(図3)。具体的には、オンパットロ(3週間に1回点滴静注)、または左室中隔厚が12mmを超える場合は、アミロイドーシスに対する治療としてTTR四量体安定化剤80mg(経口投与)が選択肢となります。3週間に1回の通院が困難な高齢患者などではTTR四量体安定化剤で治療するケースもありますが、神経障害が強い場合にはオンパットロを第一選択として検討します。また、治療中に神経障害の進行が認められた場合には、神経内科と併診した上でオンパットロへの変更を考慮することがあります。
望月オンパットロと同様の作用機序で、投与方法や投与回数が異なる新しい製剤が承認されましたね。
池中はい。アムヴトラ(一般名:ブトリシランナトリウム)が先日(2022年9月26日)承認されました。本剤は、siRNAを化学修飾して代謝安定性を向上させるとともに、肝細胞に高発現しているアシアロ糖タンパク質レセプター(ASGPR)のリガンドであるN-アセチルガラクトサミン(GalNAc)をsiRNAに付加することで、肝臓への特異的な送達と肝細胞内での滞留時間の延長を可能にした第二世代のsiRNA製剤です。前投薬や体重による用量調節が不要で、3ヵ月に1回の皮下投与による治療が可能です。
本剤の臨床効果は国際共同第Ⅲ相試験(HELIOS-A試験)で確認されており、主要評価項目である9ヵ月時点におけるmNIS+7のベースラインからの変化量は、外部対照プラセボ群(オンパットロのAPOLLO試験でのプラセボ群)と比べて、アムヴトラ群で有意(p<0.0001、ANCOVA/MIモデル)に改善したことが示されています(図4)10,11)。また、アムヴトラ群における投与18ヵ月時点までの時間平均の血清中TTRトラフ濃度のベースラインからの低下率(疑似中央値)は84.67%であり、実薬対照のオンパットロ群に対して非劣性(Hodges-Lehmann法)であったことなども示されています。
望月アムヴトラで投与回数や1回あたりの投与時間を減らせることは、定期的に通院される患者さんの負担軽減の観点から大切であるとともに、治療の継続にも寄与することが期待されますね。
ATTRvアミロイドーシス治療の歴史と遺伝カウンセリングの変遷
望月最後に、ATTRvアミロイドーシスの発症前診断における遺伝カウンセリングの変遷について臨床遺伝専門医の立場から解説いただきます。
髙橋発症前診断は、成人期発症の遺伝性疾患で、その時点ではまだ発症していない方が将来発症する可能性があるかどうかを調べる目的で行われるものです。発症前診断における遺伝カウンセリングは、治療の有無や内容により影響され、ハンチントン病などの治療法のない難治性疾患ではより慎重な対応が求められます。具体的には、受検前に複数回の遺伝カウンセリングを行い、その過程で検査を受けた(あるいは受けなかった)場合、また検査の結果が陽性(あるいは陰性)であった場合の受検者自身に起きる気持ちの変化や具体的な対処法をanticipatory guidanceとして確認します。そして、神経内科や精神科の受診や院内カンファレンスでの審議を経て、同意を得た上で検査を実施します。検査後は、結果が陽性であった場合は、定期的に複数回、陰性であった場合は1ヵ月後に面談をしてフォローします。
ATTRvアミロイドーシスの場合、発症前診断の遺伝カウンセリングに対する姿勢は、有効な治療法がなかった、もしくは侵襲的な治療法しかなかった時代と非侵襲的な治療法が登場してからとで大きく変化しました(図5)。有効な治療法がなかった時代は発端者の診断も含めて発症前診断における遺伝カウンセリングは否定的であり、肝移植の有効性が示されてからも、侵襲性が高い上に、本邦では生体肝移植となるため、血縁者を巻き込む治療法であったことから、積極的なカウンセリングにはつながりませんでした。しかし、非侵襲的な治療法として、2013年にTTR四量体安定化剤、2019年にsiRNA製剤であるオンパットロが承認されると、前向きなカウンセリングができるようになるとともに、カウンセリング開始から検査結果開示までの期間が短縮できるようになりました。実際に、全国遺伝子医療部門連絡会議が行った「成人発症の遺伝性神経・筋疾患の発症前診断に関する調査」では、発症前診断の実施前に行う遺伝カウンセリングの平均回数が、根治療法がなく高次脳機能障害を呈することが多い疾患(ハンチントン病など)では3.8回であったのに対して、治療法がある疾患(ATTRvアミロイドーシスなど)では2.4回であったことが報告されています12)。
ATTRvアミロイドーシスを早期診断するためには、発端者の遺伝カウンセリングを行って家系内の情報を収集したり、at risk者と遺伝情報を共有したりすることが有用です。本邦では、ATTRvアミロイドーシスを含む難病に関する遺伝学的検査を実施し、その結果について患者またはその家族などに対し遺伝カウンセリングを行った場合には、患者1人につき月1回に限り遺伝カウンセリング加算(1,000点)が算定されます。検査時には是非、遺伝子診療部に一報いただき、遺伝カウンセリングを有効に活用していただければと思います。
坂田ATTRvアミロイドーシスに対する治療は、早期に開始すれば「病態の進行を抑える」ことが期待できます。今後はより積極的に発症前診断を考えていきたいと思います。
望月ATTRvアミロイドーシスは全身性で進行性の疾患であるため、他科が連携して早期診断に努めることが重要です。そして、治療法も進歩しているので、発症前診断や遺伝カウンセリングを有効に活用し、血縁者も含めたフォローを行っていくことが大切であると再認識しました。今後も遺伝子診療部を含めた神経内科および循環器内科を中心とした他科連携を進めていきたいと思います。
本日はありがとうございました。
内容および医師の所属・肩書等は2022年12月記事作成当時のものです。
文献
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- Adams D, Polydefkis M, González-Duarte A, et al. Lancet Neurol. 2021;20(1):49-59.(本試験はAlnylam Pharmaceuticalsの支援により実施された)
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- Gillmore JD, Maurer MS, Falk RH, et al. Circulation. 2016;133(24):2404-2412.
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- Castano A, Haq M, Narotsky DL, et al. JAMA Cardiol. 2016;1(8):880-889.
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- Grodin JL, Maurer MS. Circulation. 2019;140(1):27-30.
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- Maurizi N, Rella V, Fumagalli C, et al. Int J Cardiol. 2020;300:191-195.
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- Pinto LF, Pinto MV. Practical Neurology. 2021:63-68.
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- 承認時評価資料:トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー患者を対象とした国際共同第Ⅲ相試験(HELIOS-A試験)
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- Adams D, Tournev IL, Taylor MS, et al. Amyloid. 2022(epub).(本試験はAlnylam Pharmaceuticalsの支援により実施された)
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- 第18回全国遺伝子医療部門連絡会議報告書. 令和2年(2020年).