アムヴトラについて

開発の経緯

トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーについて

トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーはトランスサイレチン(TTR)遺伝子の変異に起因する常染色体顕性遺伝(優性遺伝)疾患であり、進行性で生命を脅かす、全身性の希少疾患です。変異型および野生型TTRの両者からなるアミロイド線維が複数の組織に継続的に沈着することで、衰弱性のポリニューロパチーや心筋症をはじめとする様々な臨床症状をきたし、未治療であれば、発症後約10年で死に至ります。

トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーの治療

本疾患の治療には、主に神経、心臓、消化器の専門領域にまたがる集学的アプローチが求められます。現在、日本では、siRNA(small interfering RNA)製剤のオンパットロ(一般名:パチシランナトリウム)およびTTR四量体安定化剤が本疾患に対する治療薬として利用可能です。オンパットロは、RNA interference(RNAi)によってTTR mRNAに作用して肝臓でのTTR産生を抑制し、トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーにおけるアミロイドの形成・組織沈着を抑制すると考えられています。Alnylam Pharmaceuticals社が開発し、日本では「トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー」を適応症として、2019年6月に製造販売承認を取得しています。また、治療選択肢には同所性肝移植(OLT)もありますが、適応は限定的で、若年発症(50歳未満)の患者で、特にV30M(30位のバリンがメチオニンに置換された変異)型のTTR遺伝子の変異を有し、移植までの罹患期間が短い場合となります。このように利用可能な治療選択肢があるものの、患者のQOLを改善し、安全性モニタリングの負担を軽減するとともに、投与の利便性が高い有効な治療法に対するアンメット・メディカル・ニーズは依然として存在します。

アムヴトラについて

アムヴトラ(一般名:ブトリシランナトリウム)は、Alnylam Pharmaceuticals社が開発した、ESC(Enhanced Stabilization Chemistry)-GalNAc(N-アセチルガラクトサミン)コンジュゲート技術を基盤としたGalNAc結合siRNA製剤です。オンパットロと同様、RNAiによってTTR mRNAに作用し、肝臓での変異型および野生型TTRの産生を抑制します。オンパットロが3週に1回投与する点滴静注製剤であるのに対し、アムヴトラは3ヵ月に1回投与する皮下注製剤です。アムヴトラはsiRNAに肝細胞で高発現しているアシアロ糖タンパク質レセプター(ASGPR)のリガンドであるGalNAcを3分子結合させることで、肝細胞への迅速かつ特異的な送達を可能にしました。また、ESCデザインにより、すべてのヌクレオチドは2'位がOMeまたはFで修飾され、さらに6つのホスホロチオエート結合を持たせることで、代謝安定性が向上し、肝臓での滞留時間が延長されました。こうした製剤学的特性を有することから、3ヵ月に1回の皮下投与により、TTRの持続的な産生抑制効果が期待できます。

アムヴトラの臨床効果と国内外における承認状況

アムヴトラは、トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー患者を対象にした国際共同第Ⅲ相試験(HELIOS-A試験)において、プラセボ群と比較して、神経障害の指標であるmNIS+7(補正神経障害スコア+7)やQOLの指標であるNorfolk QOL-DNスコアなどを改善することが示されています。これらの臨床成績をもとに、米国では、米国食品医薬品局(FDA)より希少疾病用医薬品の指定を受け、2022年6月に成人の遺伝性トランスサイレチン型アミロイドーシス患者のポリニューロパチーの治療薬として、承認されました。また、欧州でも欧州医薬品庁(EMA)より希少疾病用医薬品の指定を受け、同年9月にステージ1又はステージ2のポリニューロパチーを有する成人患者における遺伝性トランスサイレチン型アミロイドーシスの治療薬として、承認されました。さらにブラジルでは、国家衛生監督庁(ANVISA)において、本疾患の治療薬として審査中です。日本では、2021年12月に「トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー」を適応症として承認申請を行い、2022年9月に製造販売承認を取得しました。